無次元化のメリット・やり方|無次元化で物理の本質を探る
- 無次元化って何のためにするの?
- 無次元化の仕方がよくわからない…
本記事では、この悩みを解決していきます。
無次元化は、数値計算でも、理論計算でも必要不可欠な知識です。
本記事では、無次元化のメリットとやり方を紹介します。
無次元化とは
ここでは、簡単に無次元化とは、どのような操作なのかを説明していきます。
物理における次元
物理学では、物理量が一般的に以下の次元の組み合わせによって表現されます。
基本量 | 長さ | 質量 | 時間 | 電流 | 温度 | 物質量 | 光度 |
次元 | L | M | T | I | Θ | N | J |
具体例として、 『力』の次元を紹介します。
力は、運動方程式より以下の関係を満たします。
$$ m \frac{d^{2} x}{dt^{2}} = F $$
左辺の加速度は、長さを時間で2回微分したもので、以下のような次元を持ちます。
$$ \frac{ d^{2} x}{dt^{2}} \rightarrow LT^{-2} $$
ゆえに力の次元は以下のように表せます。
$$ F \rightarrow MLT^{-2} $$
また、基本的には次元が異なるもの同士を足したり、引いたりイコールで結ぶこともできません。
この性質を使って計算ミスを大幅に減らすことができます!
無次元化とは
無次元化とは、次元のある物理量を、同じ次元を持つ特徴的な量(無次元化定数)で割ることを意味します。
例えば、ある次元をもった物理量\(x\)に対して、\(x\)と同じ次元をもつ特徴的な量\(x_{c}\)で割った以下のような量は次元のない量になります。
$$\tilde{x} = \frac{x}{x_{c}}$$
このような手続きを無次元化といい、この手続きによって得られた次元のない量を『無次元量』と言います。
特徴的な量の決め方
ここで、『特徴的な量はどのように決めたら良いの?』という疑問が湧くと思います。
特徴的な量・スケールは、基本的には考える対象に合わせてうまく設定します。
このあと具体例を通してより詳しく説明します。
無次元化のメリット
無次元化の主なメリットは、以下の二つです。
- 数値シミュレーションの数値誤差をなくす
- 理論的な解析を簡単にする
数値シミュレーションの数値誤差をなくす
無次元化をすることで、異なる大きさの定数の大きさを揃えることができます。
もしも、小さすぎるまたは、大きすぎる定数をそのまま利用して数値計算を行うと丸め誤差や情報落ちに繋がります。
もう少し専門的な言葉を使って説明すると、次元量をオーダー1になるように無次元化することで桁が揃い数値精度や数値安定性が上がります。
理論的な解析を簡単にする
無次元化を行うことで、次元を気にせず計算を行うことができ、計算ミスが減ります。
また、無次元化をすることによって、方程式のパラメータを減らすことができ、見通しがよくなります。
また、無次元化した数とパラメータの減る数には、ある関係があることが知られています(バッキンガムのπ定理)
無次元化の手順
ここからは、無次元化を実際にどのようにするのかを見ていきましょう。
一般的に理論計算では以下のステップで無次元化を行います。
- 無次元化が必要な変数を決定する
- 無次元化するための基準量を決める
- 方程式に無次元量を代入し整理する
① : 無次元化が必要な変数を決定する
まずは、無次元にするべき変数を明確にしましょう。
ここで、個数やθは無次元量なので、無次元量は無次元化が不要なことに注意してください。
② : 無次元化するための基準量を決める
次に、無次元化を実行するために、次元量の特徴的な量を決定します。
*上述したように、数値シミュレーションを行う場合は、各次元量が同じ桁くらいになるように無次元化を行いましょう!
理論解析の見通しをよくするためには、方程式が綺麗になるように選ぶのがベストです。
ここでは具体例として単振動の例を紹介します。
単振動の周期は \( 2 \pi \sqrt{m/k} \) で表せるので、時間の単位は以下のように無次元化すると良いことが予測できます。
$$ \tau = \frac{t}{2 \pi \sqrt{m / k}} $$
実際、このように無次元化を行うと解はシンプルな形で表すことができます(この後、実際に解を求めます)
当然、特徴的な量には、任意性があり、すぐに最適なものがわからないことがあります。
うまく決まらない場合は、適当に定数と置いて方程式を無次元化して最適なものを選んでも良いです。
具体的には、時間 \(t\)を以下のように、一時的な特徴量で無次元化を行いましょう。
$$ \tilde{t} = \frac{t}{\tau} $$
そして、これを方程式に入れて最適な\( \tau \)を決めましょう。
③ : 方程式に無次元量を代入し整理する
無次元化する基準量が決まったら実際に方程式に代入し、式を整理しましょう。
このとき、式が簡単になっていれば大成功です!!
次は、このプロセスを具体例を使って実行していきます。
具体例で無次元化を学ぶ
ここで扱う具体例は、簡単なバネの単振動です。
簡単な例ですが、無次元化が理論解析の見通しをよくすることがわかります。
考えるバネの運動方程式
考えるバネの運動方程式は、以下のように表せます。
$$ m \frac{ d^{2}x }{dt^{2}} = ~~ – k x $$
ここで、\( m\)はバネの質量で、\(k\)はバネ定数です。
① : 無次元化が必要な変数を決定する
今回の例では、無次元化するべき量は時間です。
これから、時間を無次元化するための特徴的な量を考えていきます。
② : 無次元化するため基準量を決める
今回の例の場合、無次元化のための基準量は簡単に候補が上がります。
まず考えるのが、周期 \( 2 \pi \sqrt{m/k} \) ですね。
しかし、\( 2 \pi \) をつけてしまうと方程式があまり綺麗にならないことがすぐにわかります。
そのため、今回は基準量として \( \sqrt{m / k} \)を採用しましょう。
つまり以下のような無次元量の時間で方程式を無次元化していきます。
$$ \tau = \frac{t}{\sqrt{m/k}} $$
これで準備は整いました。
実際に方程式を無次元化してみます。
③ : 方程式に無次元量を代入し整理する
まず時間微分は以下のように計算できます。
$$ \frac{d}{dt} = \frac{d\tau}{dt}\frac{d}{d \tau} = \sqrt{\frac{k}{m}}\frac{d}{d \tau} $$
さらに、同様の計算をすると
$$ \frac{d^{2}}{dt^{2}} = \frac{k}{m} \frac{d^{2}}{d \tau^{2}} $$
となり、運動方程式を変換すると
$$ \frac{d^{2} x}{d\tau^{2}} =~~ – x $$
のようになり、パラメータの数が0となりました。
この方程式を解いてしまえば、他のバネ定数や質量で改めて、微分方程式を解く必要がなくなりますね!
実際に解いてみると
$$ x(\tau) = A \sin ( \tau + \phi_{0} ) $$
ここで、Aと\(\phi_{0}\)は積分定数です。
このようにパラメータを含まない解が出てきます!
ある意味で、モデルの本質部分を抽出できたことになります。
参考資料
本記事を書くために利用した資料をまとめます。
参考文献
本記事を書くために参考にした参考文献を紹介します。
この本は、物理数学の知識が網羅的に紹介されているのでおすすめです。
参考サイト
まとめ
本記事では、無次元化のメリットと具体的なやり方を詳しく解説しました。
無次元化は理論計算、数値計算でも重要な手法です。
確実に定着させ、研究やデータ解析で利用できるようにしましょう。
他の物理数学の手法に関しては下記を参考にしてください。